去勢・避妊手術は必要なの?
最新の獣医療では、未去勢・未避妊の動物より、去勢・避妊された動物の方が長生きするというデータがあります。
これは当院でも同じ結果ですが、去勢・避妊をしたからといって、病気にならないわけではありません。しかし、病気を防げるという観点からは、去勢・避妊をすることで “病気になりにくい『体作り』” をすることが、犬猫にとても必要となります。
私が日々診察をする中でも、未避妊・未去勢だった犬・猫の飼い主さんから「若いときに手術を受けとけばよかった」との言葉をよく耳にします。
手術時期は、犬も猫も共通で、去勢手術は7ヶ月齢以降、避妊手術は6ヶ月齢以降に行うことができます。ただ、女の子の場合は発情(ヒート)が来てしまうと、血管が発達し、手術中に出血してしまうリスクが伴うため、発情終了から約1ヶ月後に避妊手術が可能となります。
メリット
メスの場合
病気の予防ができる
メスの病気としては、『乳腺腫瘍』『子宮蓄膿症』『子宮・卵巣疾患』などです。
乳腺腫瘍になる確率は、初回発情前に手術すると0.5%、1回発情後で8%、2回発情後で25%と上がっていきます。2歳以上での予防率は0%になるため、避妊手術を早期に行うことで乳腺腫瘍の発生リスクは抑えられることは確かです。乳腺腫瘍になってしまうと、悪性率が犬で50%、猫では90%とほとんどが悪性になります。
次に、何らかの影響で子宮に菌が入り込んでしまう病気が、子宮蓄膿症です。子宮内に膿が蓄積し、最悪の場合、お腹の中で子宮が破裂してしまいます。生死を彷徨う重篤な病気です。
他にも、子宮癌、卵巣癌、卵巣嚢腫などがあげられます。
望まない妊娠を防げる
避妊手術を実施すれば、生殖機能はなくなりますし、近親交配の可能性もなくなります。飼い主さんが、いくら注意していても、100%妊娠を防ぐことはできません。
人間も同じですが、出産は命がけですし、妊娠をさせるとなると飼い主さんもペットも相当の覚悟が必要となります。家族でじっくりと話し合って決めましょう。
発情トラブルや偽妊娠がなくなり、ストレスを軽減できる
発情中は、元気食欲の低下、落ち着きがなくなる、下痢や嘔吐、発熱などトラブルが多いです。また、偽妊娠してしまうことで、怒りっぽくなり、ストレスを貯めてしまう子も多いです。
毎回発情後に体調を崩してしまう子は、避妊手術することでトラブル回避することができます。
オスの場合
病気の予防ができる
オスの病気としては、『精巣腫瘍』『前立腺肥大、腫瘍』『肛門周囲腺腫』『会陰ヘルニア』などです。
メスと同様に、腫瘍や病気を防ぐことができます。
マーキングやマウンティングの軽減
オスは、男性ホルモンと呼ばれるテストステロンの分泌がなくなると、マーキングやマウンティングを減らすことが可能です。ただ、去勢手術をしても、癖になってしまっていれば、改善が見られない場合があります。
攻撃行動やストレスの軽減
テストステロンの分泌がなくなってしまえば、攻撃行動も徐々に無くなってくることもあるでしょう。また、発情期のメスの臭いを嗅いで興奮することもなくなり、交尾できないことによるストレスをなくすことができます。
デメリット(オス、メス共通)
全身麻酔が必要
去勢、避妊手術共に全身麻酔をかけて行います。100%安心できる麻酔薬はありません。そのため、麻酔をかける前には、血液検査や画像診断などの術前検査をして、問題がないことを確認することをお勧めします。
しかし、術前検査が問題なくても、稀に麻酔が安定しない子も中にはいます。特に短頭種は、術後に呼吸困難を起こす可能性はあります。
術後肥満の可能性がある
術後、ホルモンバランスが崩れ、エネルギー消費量が30%ほど減ってしまいます。そしてストレスの軽減により、食事量も増えます。
ここで大事になってくるのが、フードの選び方です。フードの表に「去勢避妊用」と書いていたらどれでもいいというわけではなく、高タンパクで低脂質のフードを選びましょう。
また、人間の食事を与えないようにも心がけましょう。おやつの与えすぎも注意して下さい。
毛質や毛色が変わることもある
これもホルモンバランスの崩れにより、起こる可能性があります。ただ、病気ではないため、心配する必要はありません。
繁殖できなくなる
生殖器がなくなりますので、一切繁殖させることは不可能になります。今後産ませたいという飼い主さんは、決断が必要です。
まとめ
手術には、メリットもデメリットもあります。犬猫の今後のより良い暮らしのために、手術を行うのも正解ですし、デメリットで何か引っかかるという飼い主さんは、かかりつけの獣医師とよく相談した上で決断してもらうのが1番だと思います。
当院では、去勢・避妊手術のパンフレットもお渡しできます。また、香川県では避妊・去勢手術の助成金制度もあります。わからないことがあれば、当院スタッフにお声かけて下さい。